有名無実になっていないか日本の自由化

「電力自由化」というのは、だれでも電気を自由に販売することができるし、だれでも自由に電力小売会社や電気の種類を選ぶことができるという意味です。第1章で説明した「電気の池」(送電網)の仕組みを使うことで、これが可能になります。

これまでの電気の池は、日本に10社ある地域名のついた○○電力という名の大手電力会社(自由化までは「一般電気事業者」と呼ばれてきました。)が、それぞれの地域でほぼ独占していました。しかし日本でも、契約電力2000kW以上のユーザーには2000年から電力自由化が開始され、2004年から500kW以上のユーザー、さらに2005年から50kW以上のユーザーに拡大されました。つまり事業所や大規模施設向けの高圧ユーザーに関しては2005年までに自由化が全面実施されていたのです。それから遅れること10年、2016年からやっと、一般家庭を含む低圧ユーザー部門での電力自由化がはじまったのです。低圧ユーザーに広げることで、すべてのユーザーが対象になるので、2016年の電力自由化は「完全自由化」「全面自由化」などと表現されています。

全電力ユーザーの中で低圧部門は4割ほどで、6割を占める高圧部門が自由化されていたにも関わらず、長らく大手電力会社以外のシェアは2%程度でした。2016年の「完全自由化」前に4%くらいになり、2016年には8%程度になりましたが、大手電力の独占状態はそれほど変わりませんでした。

それから5年経ちましたが、図4のように新電力のシェアは16%です。しかもこの中には、旧一般電気事業者の小売部門も含まれています。大手電力の独占状態はあまり変わっていないと見ることもできます。

図4 新電力販売電力量シェアの推移

10の大手電力会社以外で電気を売っている会社も、大手電力会社の小売部門も、今では「新電力」と呼ぶことになっています。専門用語では「小売電気事業者」と言います。大手電力の小売部門ではない「小売電気事業者」は、発電所の数や顧客の数など、その規模は小さく、大手電力会社とは大きく違っています。日本では、この規模の差が諸外国に比べて大きく、なかなかシェアの変化が起こりにくいのです。

それを大胆に変えようというのが、本来の電力システム改革です。この改革は、図5のように、1)系統(送電線網)の広域運用、2)電力販売と発電の自由化、3)送配電網の分離の三つに大別されます。系統の広域運用は2015年度からはじまり、「電力広域的運営推進機関」(OCCTO:通称オクト)という大手電力会社から独立した形の団体が設立され、ここで系統運用を担うことになっています。といっても、いまだ大手電力会社の送電エリアをつなぐ「地域間連系線」の全国運用にとどまっています。送配電網の運用ルールも、本来はこのOCCTOに一元的権限が与えられるべきですが、大手電力エリア内のルールは今でもそれぞれの大手電力が権限を持っています。広域運用についても、OCCTOに先立って政府の審議会で議論が行われ、結局は政府で決めたことをOCCTOが実行しているだけのようにも見えます。次章で、電力自由化を理由に新たに作られた様々な「電力新市場」についてご紹介しますが、OCCTOの機能は生かされていないと感じます。

図5 日本の電力システム改革の全体像

腰くだけになった2020年の送配電分離

日本の電力システム改革では、図5の第3段階、2020年4月の「送配電部門の法的分離」が電力システム改革のクライマックスとされてきました。ところが、実際にはどの大手電力も送配電会社をホールディングカンパニー(持株会社)の子会社にしただけで、「名目上の分離」に止まっています。鳴物入りでスタートした改革でしたが、「なーんだ」という腰くだけな帰結で、マスコミ報道もほとんどありませんでした。新型コロナウィルスによる緊急事態宣言などのニュースに押されているとしても、あまりにも無視されています。

「送配電分離とは何か?」、もう一度おさらいしてみましょう。2016年までは大手電力会社が、発電、送配電、および小売をほぼすべて独占してきたのですが、2020年からは発電部門と小売部門を競争分野として開放し、残る送配電部門は電力会社から切り離すという改革をさします。送配電網を高速道路のような共通インフラとしてとして誰でも使えるようにするため、大手電力会社の支配から切り離すための法的分離のはずでしたが、送配電会社が持株会社の傘下に入るということは、結局は支配されているということです。形式的な法的分離に過ぎません。

発電部門と小売部門にいたっては、分離もされず一つの会社として継続しているところもあります。三分割という理念は何処かに行ってしまいました。

2020年4月からの送配電会社の名前と法人形式が図6になります。このように形式的に作られた「送配電子会社」の管理は大手電力の持株会社が行い、発電と小売についても電力市場の8割は大手電力会社が押さえたままです。大手電力の発電部門と小売部門が事実上の相対契約で取引を行い、小売市場には安価な電気が十分に提供されず、市場価格を高止まりさせています。

「送配電子会社」を法的分離するだけでは不十分という指摘もありますが、それ以前に現状が本当に法的分離であるかどうかが問われるでしょう。これまでも、きちんとした所有権分離をすべきであるという指摘がありましたが、まさに中途半端な法的分離を許したことの弊害が現れているのではないでしょうか。仮にこの状態が法的分離と認められるのであれば、所有権分離に進むことが必須であると言わざるを得ません。

再生可能エネルギーの送電網接続を制限する「系統容量」の考え方や、送電網増強するために無駄な入札を何度も繰り返させる「系統接続案件募集プロセス」などの考え方は、大手電力が彼らのルールを押し付けていることに起因しているのです。

図6 送配電会社法的分離の実態

2020年3月13日、経済産業省プレスリリース資料より

さらに問題なのは、「送配電子会社」にだけ総括原価方式が残されたことです。総括原価方式は、コスト意識を希薄化させ、「不適切な費用」を放り込まれる可能性が大です。その懸念が的中して、原発事故の損害賠償費用、事故処理費用、また再稼働のための安全対策費などの莫大なコストまで廃炉積立金不足補填の名目で送配電費用に忍び込ませるという制度改悪が行われています。

5年前に、送電網の利用料金である託送料金の中に「核燃料再処理費」などの、本来は原発の発電コストであるべき費用が放り込まれました。そのときには、もっと社会的議論が必要と指摘されていたのですが、そのやり方はもっと激しく、なりふり構わぬものになってきました。公の議論さえ行われずに、省庁の施行規則や会計規則などの「闇改訂」で、やりたい放題になりつつあります。

電力システム改革は、実は大手電力が分割され解体されるような大きな改革でした。以前から日本の経済界を事実上支配してきた大手電力を解体できるのかと、実効性は疑問視されていましたが、やはり骨抜きにされています。そして大手電力を守るために、最大目標にされているのが、「再生可能エネルギーをつぶせ!」ということなのです。2016年から2020年まで、この5年間に現れた「再生可能エネルギーつぶし」の具体的な内容については第4章で詳しくお話します。

更新日:2020年10月13日

>第3章 日本の再生可能エネルギーのポテンシャル